円安、ビザ緩和を追い風に1000万人を突破。外国人が「期待以上」だった活動は何か。神社仏閣や富士山だけではない、最新人気スポットと誘致のための施策を紹介する。
■名所旧跡より「ふだんの生活」
外国人観光客を増やすには、リピーター化を促進する観光資源が必要だ。ここに興味深い資料がある。観光庁がまとめた「訪日外国人消費動向調査」(2013年7~9月期)だ。
訪日外国人に「期待以上だった活動」を尋ねたところ、1位の「日本食を食べること」を筆頭に、ショッピング、繁華街の街歩き、自然?景勝地観光、旅館?温泉への宿泊、日本の歴史?伝統文化体験、日本の生活文化体験という回答がずらりと並んだ。
決まりきった名所旧跡や誰もが知る観光スポットではない。私たちがふだん食べている食事や楽しんでいる街歩き、日々の生活に根ざした文化や伝統。これらが上位に入っている事実に、観光大国を目指す日本の限りない可能性が見て取れる。
町で、小さな料理教室で、テーマパークや宿泊施設で。活路として外国人観光客の開拓を図る事例に迫ってみよう。そこには、「何としてでもまたここに来たい」「利用したい」と客に熱望させるヒントが満ちている。
■【期待以上だった活動1位:日本食】 日本家庭料理教室MUSUBI ――口コミ人気トップ「お母さんの味」で心をつかむ
「Excellent」
「Good Job 」
外国人観光客に人気のスポット、築地市場にほど近いマンションの一室で歓声があがる。声の主は、外国人向けの日本料理教室MUSUBIを訪れた観光客だ。今日のメニューは、餃子とすき焼き、芋餅、味噌汁の4品。初めて顔を合わせたとは思えないほど和気あいあいとした雰囲気の中、参加者6人は互いに品評しながら、思いのほか器用な手つきで餃子の具を皮に包んでいく。
「教室で教える料理は、50種類以上の家庭料理の中から参加者のリクエストを受けて決めていますが、餃子と天ぷらは大人気。生姜とニラのパンチが効いた日本の餃子は中国の肉厚の餃子とは違った魅力があるようです。鯖の味噌煮や酢の物も好評ですよ」
こう話すのは看護師やインターナショナルスクールの保健師を経て2年前に同教室を開いた滑志田真理氏。
教室立ち上げの動機は、自らの経験から得た「ある確信」だ。
「昔から料理と海外旅行が好きで、現地で友人ができるとそのお家で家庭料理を習っていました。日本に来る外国人も『家のご飯』を習いたいという人は多いはず。そう思って教室を開き、ホームページを開設しました」
スタート時の参加者は月にわずか1人。だが、回を重ねるうちに口コミやブログなどを通じて評判が広がり、みるみる生徒は激増。2013年には旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の関東地区のアクティビティで人気1位の座に輝いた。現在は月に100~150人の外国人がMUSUBIを利用している。うち7割が旅行者、残り3割は日本在住の外国人。1回6500円、6人定員の教室は1カ月先まで満杯だ。
参加者で多いのは、北欧やスイス、フランス、オーストラリアからの旅行者たち。香港や台湾から足を運ぶ客も増えてきた。
「みな、日本の基本的な食材や調味料への関心が高い。昆布や味噌、だしに関する質問が多いので、こうした食材の説明に最初の30分を割くようになりました。昆布だったら触ってもらい、匂いも確認してもらいます。だしの繊細な味に感動されますね。日本でかつお節と昆布を買って帰り、自宅でつくったと報告をいただくことも多いですよ」
外国人に日本料理を教える教室はいくつもあるが、MUSUBIの特徴は「日本の家庭料理」に特化していること。寿司はつくらないが、家庭の寿司である巻きずしやちらし寿司はつくることもある。焼き鳥やラーメンのリクエストがあればほかの教室を勧めるといった徹底ぶりと、滑志田氏の自宅キッチンでの家庭的な雰囲気、フレンドリーできめの細かい教え方も口コミ人気を後押ししている。
話を聞いているうちに餃子が焼き上がり、すき焼きがぐつぐつと美味しい音を立て始めた。「いただきます」と手を合わせて食べ始める参加者たち。知る、つくる、食べる。ごく当たり前の日本の食文化がもたらす3つの楽しさは外国人を魅了する源泉だ。
■ほかにもこんな場所、モノが人気
●炭やき屋(東京?西麻布)
マレーシアハラルコーポレーション認定のハラルハーブ牛を使用したハラル焼肉コース(ディナー)は1人3500円~。平日は1000円前後のランチもある。
●モーモーパラダイス(東京?新宿ほか)
東京観光ツアーの旅程に組み込まれていることも多く、タイ人、台湾人が多い。1人1890円でしゃぶしゃぶやすき焼きなど(1種類)が90分食べ放題。
●日本のお菓子(各地)
アジア人には東京ばな奈、欧米人には抹茶味のチョコが人気。ヨックモック「シガール」はドバイに直営店ができたほど。「柿ピー」にも感嘆の声あり。